美術、音楽などのアート分野の翻訳には、他分野にはない特徴と独特の難しさがあります。これらを理解せず、良い翻訳を行うことはできません。実際にはどのような点に難しさがあり、そして翻訳時にはどんなところに注意しなければならないのか、抑えておきたい 3つのポイントを解説します。
美術、アート翻訳の1つ目のポイントとしてまず挙げられるのは、美術・アート分野では専門用語が頻出することです。
例えば、展覧会名(団体展など)であれば、「日展」、「文展」、「読売アンデパンダン展」などを始めとして、その多くが独特の名称がつけられています。また稀に公式の英語名を持っているところもあります。その場合は、公表されている呼称を表記どおり使用していきます。
一方、企画展にはキャッチフレーズが付いていることがあります。例えば、「静謐なる内面世界」、「風景の中に見出した真実」、「仄かなる詩情」のように豊かな雰囲気を感じさせるものだったり、単純に字句を置き換えただけの翻訳では意味の分かりにくいものが多いのが実情です。
こうした場合、その展覧会にふさわしい、詩情的、感覚的に優れた表現を使用して翻訳を行なうことが必須です。
さらに、素材や工芸などの場合の翻訳でも、専門用語が非常に多いため、しっかりと抑えておくことが何より重要だと言えます。
具体的な例としては、以下のような用語があります。
「石粉粘土、蝋型ブロンズ、不織布、真土型鋳型、直作り」
漆芸では、
「螺鈿、平文、高蒔絵、砂出蒔絵、引掻技法、泥絵、蘇芳染、総体黒漆地、本堅地、黒蝋色漆」
などが頻出します。
また、以下のように歴史的文献や著作からの引用が豊富にある場合、広く深い知識が必要とされます。
これらの文章を含めて適切な専門用語が使用されていないと、その作品そのものの評価をも下げてしまうことになりかねません。 用語の意味を理解し、既存訳語との整合性をとりつつ、その展覧会、作品にあった翻訳が行うことができなければ良い翻訳とは言えないでしょう。
美術・アートを語る文章は、どうしても観念的、抽象的になりがちであり、それらをどうやって翻訳で表現するのかは、この分野に大切なもう1つのポイントです。
例えば以下のような日本語文章があるとします。
このような表現は、日本語でもなかなか意味を把握するのが難しい文章ではないでしょうか。
また、音楽の分野でも楽曲や演奏を評する場合、普段の生活ではあまり使わない表現が多く使用されています。
このように、論理的な表現と直情的な表現が混在するのが演奏評などのドキュメントの持つ特徴と言えるため、これらを避けて翻訳するということはできません。こうした文章は、英語圏でも同じ傾向がありますが、特に日本語では文法上、主語や動詞が明確でなくても許されてしまうために、このような表現になりがちで、翻訳作業そのものをより困難なものにしています。
とはいえ、各単語を単に英語に置き換えただけでは、文の意図した事象やイメージを読者に抱かせることはできませんので、「日本語の文章が一文として何をどのように表現しているかを把握した上で、そのコンセプトを英語で表現しなおす」といったプロセスが重要になります。
つまり、 日本語の読解力、把握力、語句から文意を見定める想像力が必要なのです。
これらのドキュメントで通常使用される語彙や用法を身につけるには、豊富な読書量と正確な英語を的確に駆使できる文法力、表現力が必要となりますが、これは一朝一夕でできるものではありません。
だからこそ、この表現力が翻訳の際に重要な位置を占めることになります。
「どんな表現をするか?」−それは読者や来館者への心へ訴えかけるものであり、彼らの心を動かすことができるものにもなり得ます。
コストだけを見てその表現力をないがしろにすれば、当然ながらそれなりになり、また逆に重要視することができれば貴館の展覧会や作品が本当に価値の高いものであり、品格のあるものだということを来館者に伝えることができるのです。特に近年では、インバウンド(外国人観光客)対応の一環としても翻訳や通訳は大変重要な役割を担っています。
そしてネット全盛のこの時代、口コミによる情報は良くも悪くもこれまでの予想以上にスピーディに拡散されていきます。それはつまり、いい加減なものも伝わりやすくなるということであり、貴館のブランドイメージを毀損する可能性もあります。しかしこれとはまた逆に、良いものを伝える姿勢があれば、それは必ずや外国人観光客にも伝わります。結果として、それらの彼らにとって役に立つ情報も、SNS をはじめとしたネットによって世界中に拡散されていくのです。
ミュージアム(美術館・博物館)の評価を左右する翻訳の品質とは
外国人観光客が美術館に対して望むものとは?
3 つ目のポイントとしては、表記スタイルの準拠と統一です。翻訳時には同じドキュメント内で統一されていることが必要です。しかし、以下のように日本語と英語のそれぞれ表記スタイルが異なりますので、事前に確認が必要です。
展覧会図録(日本語)
美術・アート分野の翻訳では、古典からの引用、歴史上の事実、楽曲名、文学作品名が頻繁に出現しますのでしっかりと確認することが大切です。
読者がこれらのドキュメントを読んだ際に、驚きと感動を与えられるような翻訳を作ることができれば、当然、貴館の作品に対する評価も上がることは間違いありません。
満足のいく美術、アート分野の翻訳を行うためには、3つのポイントを抑え、対処しなければなりません。無論、これは美術やアートの背景知識を持っている翻訳者が作業を行うという前提があってのことです。
トライベクトルでは、それらをきちんと把握し、より品質の高い翻訳をご提供しております。弊社へのお問い合わせ、アート翻訳のお見積り依頼等につきましては、以下のお問い合わせフォームからご連絡をお願い致します。