「来月で仕事を辞めることになりました」
最近、こんなお話を立て続けにお聞きすることになりました。大変残念な結果ですが「どうしてこの時期に?」と感じていたところ、そこには明確な理由がありました。
この原因はミュージアムの集客力が低下し、予算縮小、緊縮財政に迫られたものだったのです。
今回はなぜこのような事態が立て続けに起きているのか、何か対策はないのか、などについて解説します。
ミュージアムの集客力が落ちるとき
実は、このことは今に始まった話ではなく、以前から言われていたことでもありました。
しかしなかなか実感として沸きにくかったのですが、ついに現実のものとなりはじめました。
例年に比べて明らかに、年々来館者数が減っているミュージアムがあります。正確な数字はまだ把握できませんが、間違いなく顕著になってきているのは、弊社でも把握しております。
過去に開催した弊社の「ミュージアム向け無料インバウンドセミナー」でも継続してこのお話はさせていただきました。
またセミナーへ参加された御担当者様のお悩みの中にも「来館者数の減少」はありました。
第1回 ミュージアム専門 無料インバウンドセミナー
第2回 ミュージアム専門 無料インバウンドセミナー
第3回 ミュージアム専門 無料インバウンドセミナー
第4回 ミュージアム専門 無料インバウンドセミナー
弊社のセミナーは、2016年から継続開催しておりますが、この問題は今年になっていよいよ本格的になってきたようです。
インバウンド対応以前の問題に直面
来館者数が減るということは、入館料やグッズの売り上げにダイレクトに影響します。公益財団法人であれ、独立行政法人であれ、来館者が減ってしまうこと自体、ミュージアムの存在意義そのものが揺さぶられかねない状況です。これは、次世代への文化の継承や研究、保存の目的を持つミュージアムとしては納得しにくいケースもあるかと思います。しかしながら、運営する体力そのものがなくなってしまうと、「背に腹は代えられない」という状態になってしまいます。
このように、来館者数が減ってしまえば、インバウンド対応や多言語対応うんぬん以前の話に立ち戻ってしまうこともあります。
あるミュージアムのケース
※特定を避けるため多少の編集を加えておりますのでご了承ください。
某県にあるミュージアムの例をご紹介します。このミュージアムは昭和から平成に切り替わる頃にオープンしたミュージアムですが、ある特定ジャンルを中心にした作品コレクションが好評で、開館当初は多くの来館者(日本人)で賑わっていました。スタッフは約15名程度で運営していました。
このミュージアムはその県の主要都市からもアクセスしやすく、建造物も作品に合ったテイストで人気を博していました。
しかし、開館から40年ほど経った現在、当時のメイン層の年齢の来館者は高齢化し、すでに世代交代を迎えていました。にもかかわず、若者世代の来館者を上手に呼ぶことができずに、徐々に来館者数が減少してしまいました。
このミュージアムでは「人口高齢化」がどれほど来館者数に影響を与えるかを頭では理解していたはずですが、実感として把握せず、従来の行動を変えなかったため、現状維持の施策を続けてしまいました。
唯一大きな舵を切ったとすれば、途中で採用した「指定管理者制度」でした。
しかし残念ながらその後も来館者数が戻ることはありませんでした。
そしてそのミュージアムでは、少人数で行っていたミュージアム運営にも関わらず、学芸員を数名契約解除せざるを得ない状況になりました。
株式会社ではないので、業績悪化や整理解雇という言葉は使用せず、あくまで契約期間満了による学芸員の契約終了ではありますが、(指定管理者制度ではあるので)実質は来館者数も減り続け予算も縮小しているための解雇と同義といっても差し支えないでしょう。
そして、学芸員は複数名いましたが、数名が契約解除となりました。そこにはいくつかの理由があるようです。
- もともと非常勤契約や契約期限があるスタッフ
- 集客やマーケティングに携わっていないスタッフ
非常勤や契約期限がある場合には、それを理由に終了させるのは道理に適っています。しかしながら、契約解除された本人は、そのミュージアムがすでにどんな状態であるかは分かっているわけですから、(それがいいか悪いかは別として)本音と建前が違うのは理解できるでしょう。
また、これは露骨と言えば露骨ですが、ミュージアムの集客やマーケティングに関わっているスタッフは(同じ学芸員だったとしても)契約解除はせず、あくまで接客や館内対応をしているスタッフが先に契約解除されました。
これはミュージアムのトップが「どのポジションのスタッフが集客しているのか」を理解しているということであり、このことがいったい何を意味するのかは、言わずもがなでしょう。
どうすればこのような事態を避けられるのか
今後、このミュージアムがどうなっていくのかは分かりません。インバウンド効果やオリンピック効果によって、来館者も回復するかもしれません。立地も悪くないですし40年もの歴史があります。ネームバリューもあります。
しかし一方で、従来と同じ方法をしていれば、(今までがそれでうまく行ってなかったので)遅かれ早かれ、またネガティブな対応を迫られる可能性も高いのです。
どちらに転ぶかは、ミュージアムの館長をはじめとした経営陣の手腕にかかっていると言えます。ただ、この40年間でチャレンジを繰り返してきたかどうか、という経験から考えると簡単には改善しない可能性が高いと言えます。
またこれも弊社セミナーで何度もお伝えしていますが、これからは日本人の人口減少がますます顕著になってきます。
引用:内閣府「高齢化の現状と将来像」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/s1_1_1.html
65歳以上の高齢者人口と15~64歳人口の比率をみてみると、昭和25(1950)年には1人の高齢者に対して12.1人の現役世代(15~64歳の者)がいたのに対して、平成27(2015)年には高齢者1人に対して現役世代2.3人になっている。今後、高齢化率は上昇し、現役世代の割合は低下し、77(2065)年には、1人の高齢者に対して1.3人の現役世代という比率になる(図1-1-6)。
来館者の高齢化、日本人の人口減少という局面にすでに差し掛かっているときに、外国人観光客を増やしていこうというのは当然の戦略と言えます。
しかしその施策を打つよりも、学芸員スタッフの契約を解除せざるを得ないという深刻な状況まで陥っている場合には、残されたスタッフへの負荷がより大きなものになるのは自明です。
「こうなる前に何か手は打てなかったのか?」と自然に思ってしまうのは致し方ないと言えます。
ただ、実はこの手の話は、どこか1つのミュージアムで起きているのではありません。弊社ではここ最近で似たようなケースをいくつもお聞きしています。
つまり、業界全体としての危機感が高まっているのではないかと考えることができます。
「強いものではなく、変化に適応したものが生き残る」
「適者生存」という言葉があります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/適者生存
「強い者が生き延びたのではない。変化に適応したものが生き延びたのだ。」
とは、ダーウィンが言ったと言われていますが、Wikipedia にもある通りその証拠はありません。しかし誰が言ったかどうはここではあまり重要ではなく、大切なのは、このフレーズが非常に的を得ているということです。
もっと言えば、これは何もミュージアムに限った話ではありません。環境の変化や顧客ニーズの変化に対応できるものこそが、生き残ることができるのです。
翻って考えた時、例のミュージアムは果たして「適者生存戦略」を描き、実行していたのでしょうか?
もしアンケートや顧客インタビュー、他館との情報交換などを積極的に取り入れ、日々の実務を改善したり、マーケティングや PR を積極的にしていたら、同じ結果になったでしょうか?
これはあくまでも仮定の話なので結果は誰にもわかりませんが、ただこの「適者生存」という概念をベースに考えれば、学芸員スタッフを解除するような事態は避けられた可能性があります。
折しも、2020年の東京オリンピックまであと1年と少し。このタイミングでインバウンド対応や多言語対応をすることが難しくなっているミュージアムがあるというのは、大変残念な事実です。
しかし、ミュージアムの使命としては、前述のように収益を上げていくだけでなく、同時に、文化の保存や研究といったもうひとつの非常に重要な側面があります。
「お金を稼ぐ」という言葉は抵抗を持たれることもありますが、自分たちでお金を稼ぐことができれば、文化財の保存や研究にも今まで以上にお金を使えるようになります。そうなればさらに自由度が増すのは自明の理です。
何よりそのミュージアムを愛する来館者がひとりでもいるのであれば、そこにこそ本来の存在意義があるのではないかと思います。
どちらも大切な要素であることは間違いありません。
まとめ
「変化に対応すること」は言葉にするのは簡単ですが、実際に実行するのには大変な努力を要します。まずはじめに大切なのはトップ自らの「変化をする」という覚悟や英断です。
これがなければ、スタッフはついてきません。誤解を恐れずにいえば「トカゲのしっぽ斬り」のようなリーダーシップでは誰も協力しないでしょう。無責任な人間は信頼されないからです。
「どうせダメだ」「何をやっても変わらない」と思っていれば、当然何も変わらない(=悪くなる)ですし、閉館されることもあるでしょう。
逆に言えば、「断固たる決意」を持ち行動するからこそ、ミュージアムが存続していくのだと言えます。
私どもはそういった事態を避けるべく、少しでもお役に立つためにミュージアム専門のインバウンドコンサルティングや、ミュージアム専門のインバウンドサービスをご提供しております。
ミュージアム専門インバウンドコンサルティングプラン
今回のテーマは一見ネガティブに見えますが、その実、捉え方によってはオリンピック直前の最後の変化のチャンスとも言えます。
ここでしっかりと土台固めをすることによって、新たな来館者の創出(国内、海外)を図り、貴館にとって大きな飛躍の時期となるのは間違いありません。
弊社も翻訳をはじめとしてそのお手伝いをさせていただければと考えております。