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多言語化の弊害:展示スペース編

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インバウンド対策として、ミュージアムの多言語化も徐々に進んでおりますが、それと同時に弊社では多言語化による弊害についてもお話をお伺いすることが多くなってきました。

今回はその弊害で学芸員の方々の頭を悩ませる「展示スぺース」について考えてみたいと思います。

ミュージアムは作品を鑑賞する「聖なる場所」

当たり前の話ですが、アート、ミュージアムはその作品を鑑賞する場所です。作品の保存、作品の研究、作品の管理、作品の紹介などは、すべてその「作品」が真ん中にあるからこそ発生しています。

プロの学芸員の方々による緻密で繊細な配慮が行き届いたミュージアムは、来館者にもその温度感が届くものです。

一方、来館者の背景や知識量は様々です。だからこそ自由に感じ、自由に解釈することができるのもアートの素晴らしい部分ではないかと思います。

しかし、歴史的な観点や作者、作家のことを知りたい、どうしてこういった作品を生み出すことになったのか、何があったのかなどの背景情報を知りたい場合には、作品解説は欠かせません。

「日本語」だけなら良かった時代

作品のことがよく分からない、どういう時代にどういう背景で、誰の手から渡り、いまここにあるのか、この作品の特長は何か、どんな技法が用いられているのかなどを知るための作品解説は作品そのものを際立たせる重要な使命があります。

作品解説を読み込むことで、鑑賞ポイントが絞られたり、素人では気づかなかった部分に気付かされたり、というのは往々にして起きることです。

そしてこれまで、来館者のほとんどが日本人であったため丁寧な日本語解説は重宝されましたし、作品の理解に大きく役立っていました。

日本人を相手としたミュージアム運営では、この「展示スペース」については特に問題にはなっていなかったのです。

いつしか解説がメインに

しかし、この数年来のインバウンドブームにより、ミュージアムにも多くの外国人観光客が押し寄せるようになりました。2018年には、3,200万人もの外国人観光客がやってきています。

 

参考:https://www.travelvoice.jp/20190116-124679

 

このように年々増える外国人観光客は、当然ながらミュージアムにも足を運びます。ミュージアムが準備するのは、パンフレットや Webサイトの翻訳だけでなく、作品名や作品解説、図録などにも及びます。

そしてここで大きな問題が発生します。

作品の横にある作品解説パネルは、これまでは以下のように展示されていました。

ところが、多言語翻訳をした場合には、作品解説パネルが大きくなってしまうのです。

外国人観光客にとっては親切なのですが、ある意味、「作品よりも目立つ作品解説」というのは本末転倒になってしまいます。

もちろん、作品の詳細を知ってもらうという目的は達成されているので、これはこれで正解という考え方もあるかもしれませんが、しかし本当は作品そのものをじっくりと鑑賞し、湧き上がる感情や何かを感じ取ってもらう方が、鑑賞者の心に残るのではないでしょうか。

この点から考えると作品解説がスペースを大きく占拠してしまい、作品そのものがフォーカスされなくなるという事態も起きてしまいます。

何を翻訳して、何を翻訳しないのか

すべての作品に解説をつける、と言うことはありません。これは日本語だけの時も同じだったはずです。メインの作品や重要な作品には解説をしっかりつけることによって展示にメリハリが生まれるからです。

多言語翻訳が標準の現在、もしすべての作品に解説をつけていたら大変なことになってしまいます。空間そのものの設計も上手く行かなくなります。

それはミュージアムのイメージを毀損してしまうかもしれませんし、来館者にとっても良いものではないでしょう。

上述のように、ここはメリハリをつけるという意味でも、また多言語になったからといって「どの作品に多言語翻訳をつけるのか、つけないのか」を限定する必要があります。

それができなければ、過剰な文字情報の海に飲み込まれてしまうからです。

では、それ以外はどのようにすればいいのでしょうか?

多言語音声ガイドの活用

ひとつの答えとしては、「多言語音声ガイド」の活用が挙げられます。

この多言語音声ガイドによって、作品解説パネルのスペースを広げることなく、多言語による情報提供が可能になります。

弊社でも「多言語音声ガイド制作プラン」をはじめ、各言語の音声ガイド制作を承っております。

https://art.trivector.co.jp/audioguide.html

しかし、多言語音声ガイドは、1点だけデメリットがあります。それは音声ガイドを借りる人にしか情報を伝えらえれないという事です。

解説パネルなら作品を見ていけば嫌でも目に入りますが、音声ガイドはそれができません。音声ガイドの番号が振ってあっても、レンタルしていたり、ダウンロードしていなければ聞くことができないからです。

この場合、ミュージアムとしては、受付での多言語音声ガイドの積極的な周知活動が重要になりますので、この部分をしっかり理解して多言語音声ガイドを制作されることをお薦めいたします。

なお、この音声ガイドについても、音声の質や翻訳の質は、鑑賞者の耳からダイレクトに相手に伝わりますので、制作時にはより一層の注意が必要です。

 

展示スペースは永遠のテーマ

展覧会期中の作品解説をはじめ、「展示スペースをどう利用するか」というのは、ミュージアムにとっては大変重要なテーマです。

例えば、文字情報から音声情報へ、という移行だけでなく、VR や AR という選択肢もあります。ただしコストなどを考えると大規模館は可能でも中小規模館では現実的に難しかったりするため、やはり音声ガイドが一番安全ということも言えるでしょう。

インバウンドという観点から「展示スペース」を考えるとき、様々な選択肢が浮かびますが、それと同時に制約も大きくなります。

多言語音声ガイドの制作は、解決のための一手ですが、将来、展示スペースの全方位的な有効活用ができれば、外国人観光客にとっても、日本人にとっても大変素晴らしいことになるのは間違いありません。